Chapter2
アトリエ・ビザビ
ガラスアーティスト 若林 茂人さん、若林 悠子さん
その1『プロフィール、設計士との関係』
ステンドグラス、積層ガラス、エッチンググラス、ライティングオブジェ、ミックスメディアアートワークなどなど、とにかくガラスで何でも創造してしまうアトリエビザビ主宰の若林 茂人さん、若林 悠子さん。
お二人の素顔に迫ってみましょう♪

WS:若林 茂人さん
WY:若林 悠子さん
R:インタビュアー・辻量太(ATREIL DESSIN)

R:それでは簡単なプロフィールを教えてください。まずご出身はどちらですか?

WS:生まれは北海道の利尻島です。1952年生まれです。

R:ビザビを設立する前は何をなさってたのでしょう?

WS:実は普通の会社員でした。メーカーにいたんです。簡単に言うとロボット関係の仕事をしていました。

R:そうだったんですか。それではガラスに出会ったのはいつ頃なんですか?

WS:会社員時代、フランスの方に駐在してたんですよ。30年くらい前ですね。フランスって教会とかあるじゃないですか。それで興味は持ってたんですけどね。
あるとき、たまたまガラスを加工するショーが、ドイツのデュッセルドルフであったんですよ。その展覧会の一角でステンドグラスを作る実践をやってたんです。デモンストレーションを見て、それであちこちステンドグラスを見て歩くようになったんです。

R:子供の頃は芸術には興味なかったんですか?

WS:絵を描いたり、モノ作ったりするのは好きでしたね。

R:その後、日本に帰ってきてすぐ立ち上げたという感じですか?

WS:日本に帰ってきて2年ぐらいしたら、私がいた部門の業務内容が変わってしまって、それで面白くなくなってしまったんです。
それで、その頃は女房と共働きしてたんですけど、休日に社内旅行するというので、暇つぶしにステンドグラスの体験教室でも入ってみようか…ということになったんです。そこで自分にもできるんじゃないかな…と思ったんですよ。
よし!じゃあ会社辞めちゃって本格的に技術習ってみようかって…。30歳くらいの時だよね?WY:その頃は子供もいなかったですしね。

WS:女房に1年間食わせてもらってたんですよ(笑)。

R:恐れとか不安とかはなかったですか?

WS:それはありませんでしたね。結構能天気でやってますんで(笑)。おふくろにはめちゃくちゃ心配されましたけどね…。
入った学校は、大きな専門学校じゃなかったんですけど、プロを目指す人って言うのはあの頃結構ブームだったから、それなりにいたらしいんですよ。それでそういう教室が開講するということで本格的に習おうかと…

R:積層ガラスもそこでならったんですか?

WS:いや、そこでは基本的なことだけです。ガラスを切って、それを組上げて、形にするというのと、あとは絵付けっていって、古典的なガラスに絵を描く、そういう技術です。そこで1年間ずっと…
知り合った同期とかはその後、研究科とかに行ってましたけどね。僕は「まぁこんだけわかりゃいいかな」と思って。あとはどういうモノつくるかっていうのはその人それぞれだと思うので。

R:ガラスアートの醍醐味はなんでしょう。あるいはどんな時に快感に思ったりしますか?

WS:やはり、つくる時は結構しんどいですよね。手は切るしね。
でも出来上がった時にね、建築物に入れて、自分でも「よくできたなー」とか、お客さんに「いいね、これ」って言ってもらえた時は、嬉しいですね。
僕はもともと技術系の方からアートの方にきたので、最初からアートでやってる人とは違うかもしれないですね。

R:過去には個展も開かれていますよね?照明とか。
若林さん個人的には個展の作品と、建築(の中)に使われるガラスではどちらが面白いですか?

WS:やっぱり建築の中のガラスが面白いね。

R:それは建築の中にはまった時に全体を見て、という感じですか?

WS:そうそう。生活の中に作品があるのがいいですね。小作品として見せるのもいいんだけれど、建物の中に入るというのはまた格別なもんですよ。ここ(アトリエ)で見るのと、建物の中に入るのはまるっきり違いますよね。ですから、建物が魅力ありますよね。

ライティング・オブジェ
若林茂人・ガラスの世界展
2000年2月

R:照明なんかは、今は販売されていないんですか?

WS:採算あわないし、働くのがあんまり好きじゃないから(笑)。
それじゃいけないんだけどね。こんなところ(アトリエ)からは早く出なきゃいけないんだけど…。

R:こちらにはどのくらいいらっしゃるんですか?

WS、WY:20年!

WS:創業当時、お金はなかったし、作業場と言ってもなかなか良いところがなかったんですよ。

R:それでは今、なにか新しい挑戦とかありますか?

WS:ITかな(笑)…。モノ作りはね、お金になんないのよ(笑)。
なんないから、しょうがないなと思って。だから長年やって、少しずつ、ひとりずつファンが増えてくれればね。もういい加減、歳なんで…

R:作品がすごく多いですね?

WS:多くはないですよ!?。本当はもっと何倍もなきゃ生活は出来ないんだけど。働き者じゃないもんで…。

WY:こだわってつくってしまって、そこそこ頂かないとつくれないんで。安かろう悪かろうっていうのだけはやっぱりやりたくないですから。

WS:効率が悪いんですよ。こういうつくり方(すべてオーダーメイド)してるんで…。
例えばデザインやってると、そのときはもう完全に制作が止まっちゃうし。だから制作してるのが全体のだいたい半分あるかないかくらい…。
一年のうちに半分くらいだよね、延べにするとね。

WY:結局自分でこだわっちゃって他に任せられないと同じようなことの繰り返しになっちゃうんですよ。

R:こだわりなんですね。自分でやらないと気が済まないっていうのは…。

WS:でもね、大きい仕事となると人を頼んでやったことあるんですよ。
3〜4人くらい人を頼んで、ガラス切って、組んでもらったりとかしても、やっぱり気に入らないところがあるんですよ。またこうバラして自分でやったりとか…。どうしてもね、「何のために」っていうのがあるんですよね。それが何年もして、この歳になると、「あんなことしなくてもよかったんじゃないか、そのまま出しちゃえばよかったのかな…」って思うんだけど…(笑)。

R:学生の時の設計の課題で、時間がないから楽して模型が作りやすいような設計をする奴とかいたんですよね。でもそういうのが嫌で、模型でつくるの大変だろうっていう設計をしちゃうんですよね…。で、時間がなくて提出に間に合わないとか、よくありましたよ。教授の評価とかどうでもよかったんで…。あの頃は設計してる時は夢中で、考えてないんですよね、模型を作るっていう事を。
自分の作品をつくってるのと逆に、建築で使う場合は納期が完全に限られてるから…


WS:そうそう、だから、止むを得なくやるんだけど、なかなか、こう…ストレスになって…。今は結構大きなものでも2人でやったり、娘に頼んだりとかしてやるんで。

R:人が足りなかったりで、仕事を断るっていうケースもあったりとか…?

WY:それはある…

WS:この仕事は、今日話があって、2・3日後に出来るっていうもんじゃないから。
必ず、こう、スパンが長いですからね。

R:尊敬されてるアーティストとかはいますか?

WS:僕はあんまり…元々が違うから。アートを目指してっていうスタートじゃないから、それはあまりないですね。
ただ、いいものは、何でもいいと思うから…どんな人のでも。
どんな名前のすごい人でも、大したことない作品は大したことないと思うし。全部が全部そうじゃないけど…。だから、名前もあんまり関係ないですね。

WY:ガラスなんかも、色とか質感で選んでくるんで、教えてくださいとかいって来られる方に、「このガラス、どこのメーカーの何番のガラスですか」って聞かれても、すぐには…なんですね。見て、このデザインを起こしたから、このガラスが必要なんだって選んでくるんで、メーカーとか品番とかでは選ばないので、よく聞かれるんですけど、いじわるで答えないんじゃなくて、全然覚えてないんですよね(笑)。

R:わかりますね。僕もそうなんですよ。何年に誰が設計した建築物かって、興味がない建物だと覚えられないんですよ(笑)

WY:もし、そのガラスがなければそれにあいまった色を考えるっていう風にしますから。
どこかで別立てになってて、それでぴったりいった時には良いというような形で考えないと、いつも同じように…。やっぱりあるんですよ。均一だったら、無駄なガラスが少ないぞとか。あんまり手を加えちゃうと、ここは使えてここは使えないから、経済的に…。
だから同じようなガラスしか使わないっていう工房もありますし。うちなんかは特色としては個性的でなきゃというとこがあるので、(材料の)ガラスは結構使いますよね。贅沢な使い方をしてしまうんで。

WS:(材料の)ガラスも買ってないよ、最近。受注単価が安いもんだから(笑)

WY:不景気だって言って、みなさんね…。本当に大変でしたよ。今まで決まってた仕事までなくなっちゃうんだから。結局予算がなければ押し出される立場なんですよ、装飾の部分って…。一番取りづらくって、一番削りやすいところなんですよね。雨風しのぐのと、デザインどっちを選ぶって言われたらねぇ。
…最近、ちょっと設計事務所の方も少し予算取れそうだからって、声かけてくださるんで、景気が上向いてきたのかしらって思うんですけどね。良い時も悪い時も。こだわってそれをしていく、ということでしかやってないからね。

R:デザインは一番削りやすい部分ですもんね。ところで設計士に色々と求められたりしますか?

WS:求められるのは、あんまりやってないことを工夫して…ということなんですよ。ステンドグラスならステンドグラスってのは、イメージとしてはあるんだけども、ただのステンドグラスじゃつまんない。それに、なんかやってくれるんじゃないかっていう期待があって、頼んでくれるみたいです。だから、滅茶苦茶なことを言われる方もいますよ。全然ガラスと関係ないことを相談してきたりとか。

R:例えばどんなことを?

WS:なんか…「古美術を入れる展示ケースを考えてくれないか?」とか…。

WY:加工の方が費用がかかるんですよ。

WS:「いくら儲けてもいいから」って言うんですけど…(笑)。

WY:全部おさまればすごくいいのはわかるんですけど、ガラスって結構外注加工みたいなのが高いんですよね。

R:そうですね。特殊な機械とか使いますもんね。

WY:コバ処理(ガラスの角の鋭利な部分の面取り)でも、うちでやるからそのお値段なんで、外注で出してしまったら、とてもそんなんじゃ全部頼んでも、コバもとれないっていう金額になっちゃうんで。それをちょっとご理解いただきたいんですけど…。そういう方なんで、イメージはどこまでも追求してみて、出来たものに満足して下さるまでが、非常に大変なんです・・・。だからすごく、面白いというか、素敵なものができますけどね(笑)。

R:でもそのやったことないってことが、その枠を抜け出そうとするのはいいですよね、毎回。

WY:毎回そうなんです。

WS:毎回そうだね。

WY:ひとりで頑張っちゃうから。その人がGO出さないとGOが出ないのにひとりで…

WS:そういう設計士さんが何人かいれば、楽しんで仕事できますよね。やっぱり自分でこう、自分だけの作品作っていうのも、それはそれで面白いんだろうけども、色んな課題をクリアするみたいな、そういうのがいいんですね。

WY:また上手いんですよ。なんかね、やらされちゃうんですよ。

WS:そういうので結構神経使っちゃうから、そういう仕事終わって、自分の作品なんて、なかなかいかない…完全燃焼までは行かないけど。

WY:なんかこう…ぶつけてきますよね。言葉悪いですけど、試されてるような気もするんですよね。「出来るのか?」みたいな、「どうだ?歳取ったか?」みたいな(笑)、「錆びてないか?」みたいな…。そういうこう、投げかけられ方すると、ちょっと考えてみようかなって思いが…。

WS:手かけちゃうからね。

WY:説明するためのものに対しての試作だとか、材料だとか、全然ないじゃないですか(普通はオーダーメイドでやったことがないものだから)。なかなかこういう、新しいもの作る時も、試作とか、試行錯誤なのに、「時間とかお金とか考えてくれよっ!」とか思うんですけど。

WS:作り始める前の方が何倍も長いからね。「こんなの何日でできるだろ」って言われちゃうと一番つらいね。やったことないんだから。

WY:ここまでやったから、納期は何日下さいって言えるんですけど、ものは全然ないですからね、評価ってものは。ちょっと…きついですよね。

R:若林さんに頼めば、納得できるモノをつくってくれる、っていうのがあるんでしょうね。

WY:あるいは何かちがうものを出してくるぞ…と思ってる、とかね。

R:「ちがう」っていうのは、良い意味で期待を裏切ってくれるという期待ですか?

WY:こう思ってるけど、じゃあ、若林さんだったらどう考える?っていうような言われ方すると…。考えないワケないじゃないですか。そういうところからちょっとずつ、ちょっとずつ引っ張って、仲間にするんですよ。うちちょっと無理ですからって言っても、「いや若林さんの考え、ちょっとでいいから」って。そういう上手い方がいらっしゃるんですよ。でも、苦しいと「大丈夫?」とか言って、よく気遣ってくださる(笑)。



その1、いかがでしたか?
「僕はもともと技術系の方からアートの方にきたので、最初からアートでやってる人とは違うかもしれないですね。」と語る若林さん。終始優しく、冗談も交えながらインタビューに答えてくれました。しかし言葉の端々に、作品には一切の妥協を許さない姿勢、強烈なこだわりを感じました。

さて次回は【その2:様々な加工法】をお送りします。お楽しみに。
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